BMW MiniR56 CooperS エンジンオーバーホール

2007年型 Mini R56 CooperS、先代モデルのR53 CooperS(スーパーチャージャー)からターボチャージャーに変わって馬力もトルクも桁違いに向上されてた1.6Lターボモデル。 我ら27MSが得意とするDMEチューニングも功を奏し、パワフルな1.6Lエンジンは、可愛いMINIを豹変させるに十分なポテンシャルを有す。
・・ところがである。

なにせ、Miniにはエンジン不調が結構見受けられる。
ちょっとした息継ぎ、アイドルの不安定、など、DMEチューニングでは影響されない様な現象なのだが、DMEを行った後には必ずと言ってプログラムの影響を疑われ、何とか改善できないものか?と要求されることもある。

しかしである。
まずこの画像を見ていただきたい。

エンジン脱着

BMW mini R56オーバーホールのためエンジン着脱BMW mini R56オーバーホールのためエンジン着脱

MINIの場合、先ずフロントバンパーを外し、前面側にスペースを確保する。
補機類、アクスル類を取り外した後に、エンジン・MT一体を前方にスライドさせながら取り出す。

R56S/カーボンの蓄積

こんなに蓄積したカーボンを目のあたりにすると、エンジン不調が当然に思える。
バルブ、ピストン・・と山のようにたまった垢。 コレでは、調子が悪いはず。

例えば、バルブ。

カーボンてんこ盛りのバルブだが、仮に(ありえない話だが・・)このような形状のバルブがあったとすれば、とてつもなく吸排気効率の悪い最悪なデザインと言える。
このカーボン蓄積が如何に酷いものなかは、誰でも容易に想像できる。

ピストンも検証してみる。

燃焼時のガスがトップリングを吹き抜け、セカンドリングも吹き抜けている。
リングを吹き抜けているということは、圧縮にロスが出ていることになる。
加えて、リングの固着を招きさらに悪化の方向に走る。

タイミングチェーンガイドの破損

タイミングチェーンをガイドする樹脂にも破損が見られた。
断片はオイルパンに落ち、クラックの入った状態でかろうじて耐えていた様子だ。
チェーンの張りは、チェーンテンショナーによって担われるが、初期型テンショナーの性能が悪く、異音が発生するケースもあるようだ。


今回分解したエンジンは、それが原因でガイドが破損したのかは断定できないものの、常識的に考えてばチェーンが暴れて樹脂が割れたと判断するのが妥当と考える。
事実テンショナは設計変されている様子である。

さて、27モータースポーツ流のエンジンOHの始まりである。

MAHLEピストン

BMW MINI R56 マーレピストン

27モータースポーツは、MAHLE MOTOR SPORTSの日本総代理店を務めているので、当然ピストンはMAHLE製の鍛造品を使う。
直噴ターボなので、トップの形状は燃料噴射を受ける箇所が、そのまま気流を発生させるように特殊なデザインとなっている。

純正ピストンも同じくMAHLE製。ただしこちらは量産の鋳造品。
BMW、Ferrari、Porsche、Audi、など欧州車の多くにMAHLE製ピストンが純正採用されている。
同じMAHLE製。鍛造品を製造するのに外すようなことはありえない。
この点のおいても圧倒的な優位性がある。

リングは、1.0mm/1.2mm/2.8mmの比較的薄いタイプが使われているが、77.5mmの小ぶりなボア径からしても、フリクションの低減には魅力的な設定である。
またピストンスカートのグラファルコートも効果的である。

ピストントップ裏をご覧いただきたい。
まったく後加工の痕跡がない。 つまり肉抜き加工を行わずして軽量化されており、且つ均等な重量を達成している。
如何にMAHLEの金型、材質、加工の精度が高いものかが分かる。

コネクティングロッド>

コンロッドのオリジナル製品の設定がまだないために、今回は他社製のカスタムを採用。
純正ロッドのキャップボルトはあまりに細く、信頼性に疑問もある。

ネックの細さ、あるいは小端部のテーパー形状など、純正品にしては随分と軽量化を求めている様子が伺えるが、別段納得できる程の軽量化が達成されている訳でもない。

一方で、1.6ターボエンジンとしては十分過ぎるトルクを発揮するこのエンジン。
ロッドのトラブルは、即エンジンブローに繋がるのは当然の事である。
ロッドには十分に配慮して望みたいのは、組手側としては当然のことである。

ヘッドワーク

今回のヘッドは、特に特別なパーツを奢ることもなく、忠実にリフレッシュに徹した。
ただし、蓄積したカーボンを除去しただけではなく、バルブフェース、バルブシートの当たり面はカットし、密着性を高めている。

これらのバルブ周りの作業は、専門のマシニングと経験を有する。
この出来次第で性能が大きく変わってしまうので、慎重を極めたいところだ。

クランクシャフト

クランクは、距離的に言っても十分再使用に値するが、曲がり・振れには十分注意をして組み上げる。
勿論、ジャーナル部はスーパーラッピングを施し、丁寧に仕上げる。

クランクは、単独キャップ型ではなく、ラダー一体型でガッチリと、固定される。  大変良い構造になっている。

インジェクタークリーニング

直噴式のインジェクターはとてつもない高燃圧が掛かるもので、従来のインジェクターの様な単品検査が容易にできない。
しかし、燃焼室に直接位置するインジェクターの先端部はピストン同様にカーボンの付着がある。
超音波洗浄で、できる限りの洗浄は行う。

タービン

BMW R56 MINI G-ターボ 大型タービン


今回は、当社のGTタービンを使った。
GTタービンは、アップグレード用に設定されているもので、製造メーカーは純正タービンと同じ、ボルクワーナー製。
DMEチューニングと併用しないと、そのポテンシャルをうまく引き出すことができないものの、一旦プログラムとマッチさせればレスポンスも良く、低速から高トルクが発揮される。 信頼性、耐久性、性能、価格、どれをとっても申し分の無い製品である。

スポーツキャタライザー

BMW R56 MINI スポーツキャタライザー



高性能200セルを使った27MSオリジナルのスポーツキャタライザーは、OH以前から使っていたもの。
今回もそのまま再使用とした。
排気効率の向上はエンジン性能に大きく影響する。

エンジン性能の検証



O/H後:マーレピストン、GTターボ、キャタライザー
&DMEチューニングECU

O/H後:マーレピストン、GTターボ、キャタライザー
&ノーマルECU

O/H前:キャタライザー&DMEチューニングECU

O/H前:ノーマル
組み上げて暫くは慣らしの意味で、純正プログラムのままで様子をみる。
丁度通勤にも使っているので、大人しく距離を延ばすには都合が良い。組み上げて直ぐに分かるのがエンジンの静粛性。そしてピックアップの良さ。
軽く吹き上がるエンジンは明らかに今までは異なる。

1.純正プログラムのままで測定

先ず、純正プログラムのままで測定を試みる(グラフ赤ライン)。OH以前との違いはMAHLE製ピストン、カスタムロッド、そしてGTタービン。
純正プログラムではタービンの違いがほとんど得られないので、ここでの性能差は、綺麗に組み上げた各所の精度、そしてMAHLEピストンの総合的なプロフィールであり、低フリクションの効果。

特にパワーアップを狙わない単純なリフレッシュOHであったとしても、MAHLEピストンを使うメリットは十分にある訳だ。

軽く吹き上がるピストンは、自ずとパワーアップに繋がる。

2.27MSオリジナルプログラムでセットアップ

大きく盛り上がるトルクカーブは圧巻(グラフ緑ライン)。
標準1.6Lエンジンがここまで仕上がるのか、と息を飲む瞬間である。
勿論、GTタービンや、スポーツキャタライザーなど、総合的な性能アップであることは当然であるが、中核となるMAHLE製鍛造ピストンの役割は大きい。

鍛造、軽量、高精度、低フリクション、そして世界高峰に君臨するMAHLE製。
折角のOHでこのピストンを使わない手はない。